ちょっと待った !!
子どもたちの立場から
じっくり考え直そう 保育園の民営化

 今、立川市では、公立保育園11園のうち、将来的に5園を順次民営化していく計画があり、2010年度までに、まず1園を民営化しようとしています。初めの民営化候補は西砂保育園、2園目の候補は見影橋保育園と発表され、保護者を対象とした説明会も始まりましたが、この2園の民営化が確定し決定事項になったわけではありません。

コスト論に偏重した民営化 !?

 私、五十嵐けんは、公立保育園万能論者でも民間保育園万能論者でもありませんが、保育に市場主義を持ち込み、コスト論を優先し、財政的支出の削減のみを目的とした安易な民営化については反対です(と言ってもコスト主義を全否定するつもりもありません)。

 立川市の場合は、ややもするとコスト論に偏重した民営化論が展開されており、その根拠となる試算や数値もコスト論に偏重しており、本当の「保育の質」の向上を目指すものになっていないと考えています。 立川市が市立保育園を民営化しようという主な理由は、公立保育園と私立保育園では、運営経費において大きな差があり、公立のほうが多くの経費がかかっている、ゆえに、市の財政支出を抑えるためにも民営化が必要であるというもので、その民営化によって待機児の解消をしようというものです。

官民のコスト格差はどこから生じているのか

 特に市は、市税の投入額として、2005年度の決算額で、児童1人あたり公立保育園には約157万円、私立保育園には約60万円で、コスト負担に2.6倍の差があるとしていますが、このコスト差は、保育を市場にゆだね、税金投入を抑制しようとしている国の誘導政策の中で公立保育園への国からの補助金が2005年度から一般財源化し、削減されたためです。

 実際に、私立保育園には、公立保育園より多くの国や東京都からの補助金等があり、児童1人あたりの運営コストの年額は公立保育園で約198万円、私立保育園約130万円で、その官民格差は1.5倍です。 さらに、2006年度の決算額で、退職給与引当金繰入等や減価償却費を含まない場合は公立保育園で184万6369円、私立保育園135万2236円で、その官民格差は1.37倍まで下がります。 このコスト格差1.5倍や1.37倍は、なぜ生じているかと言えば、ひとえに保育士の年齢と勤続年数の差があるからに他なりません。 立川市の正規保育士の平均年齢は公立で40歳、私立で32歳と私立は8歳も若く、勤続年数は公立で19年、私立で8年と11年もの差があります。

 その年齢構成も、公立は20代、30代、40代、50代が満遍なく分布していますが、私立は、20代が圧倒的に多く47.1%、30代が29.4%で20代・30代の構成比率が約7割7分を占めるという極端な年代構成となっています。 つまり、私立保育園の場合、極めて就労回転率が高く、定着率が低く、非常に離職率が高いと言うことです。 その結果、平均年齢、勤続年数が低くなり、給与水準も当然低くなります。「公立保育園の方が高コストである」という要因は、国が公立保育園の補助金を大幅にカットしていることと、私立保育園の保育士の定着率が低く、20代の若い保育士が半分を占めるという勤務実態に行きつきます。

拙速な民営化より私立保育園の保育士の待遇改善が先

 また、公立、私立の保育士の過去5年間の産休・育休の取得状況を見ると、私立保育士の取得数が相当低くなっており、保育士が産休や育休をとりにくい状況です。つまり、私立保育園の「低コスト」の源泉は、定着率の低く、労働者として当然の権利を行使できない職場環境にあることと考えられ、もし、私立保育園において、保育士が自らの諸権利を抑制されることなく、自らの意志で行使できるような職場環境になるならば、定着率も高まり、保育士の年齢構成も年代毎に均等となり、立川市でも1.5倍、1.37倍というコスト格差はほぼ解消できると言っても過言ではありません。

 実際に立川市の11園の公立保育園の正規保育士(平均年齢40歳)の平均給与は42万1000円、17園の私立保育園の正規保育士(平均年齢32歳)の平均給与は25万5000円で、16万6000円の差があります。

 しかし、公立保育園で団塊の世代が大量に退職して、保育士の平均年齢や平均給与が下がり、また、私立保育園の保育士への待遇改善のために市が公的負担を増やして離職率を抑えれば、私立保育園の保育士の平均年齢や平均給与も上がるので、人件費におけるコスト格差はほぼ解消すると考えられます。 ちなみに認可の私立保育園保育士への国の給与補助(民間施設給与等改善補助)は10年で頭打ちになってしまい、それ以降は補助が増えないようになっています。 

 ですから、拙速な保育園の民営化よりも、まず私立保育園保育士の就労実態について正確に把握して、私立保育園の職場環境の整備・向上が先に必要ではないでしょうか。 「保育の質」を向上させるためには、保育士の給与や労働環境を向上させることは必須条件です。

「保育の質」や保育サービスの向上には公的負担を増やすべき

 また、子どもたちのために保育サービスを充実、向上させるためには、公立、私立を問わず、関連予算をふやすことが必要です。保育への公的負担は出産から学齢期までの一時的なものですが、働く母親はそれよりはるかに長い期間、税金や社会保険料を国や自治体に還元し続けますから、決してコストがかかりすぎているとは言えません。 

 つまり、保育への公的負担は、現状でも税収増という形で財政に貢献し、さらに社会保険料支払いという形で社会的にも貢献しています。決して、国、地方自治体の財政悪化を招いているのではありません(ムダ使いは他にたくさんありますよね…)。 

 さらに、現状の公的負担額を増やし、待機児童問題に示される保育需要や供給量の少なさから顕在化していない潜在的な保育需要に対応できるようになれば、その効果をさらに発揮することになります。女性の就労を支援するという意味でも、男女共同参画社会の推進、さらには少子化対策としても有効なものです。端的に言うと、保護者が安心できる「コスト」をかけた保育所の整備は女性の労働参加を促進し、減少する日本の労働力人口を維持し、少子化の進行を抑制して出生率を上昇させるということにつながるのです。 

 保育への公的負担を増やしていくことは長期的に見れば、その投資に十分に見合うものになるのではないでしょうか。 公立保育園のいいところもあれば私立保育園のいいところもあり、公立、私立が競合しながらいい意味での競争をし、長所をさらに伸ばしながら短所を補い合うことが求められていると思います。 拙速な保育園の民営化は、子どもたちの立場にたって、じっくり考え直しましょう !!

保護者説明会に参加して、意見を言おう!!

西砂保育園
1回目の説明会は6月28日と7月2日におこなわれて終了しています。あわせて約70名の参加があり、民営化にともなう諸問題について質疑がありました。2回目説明会7月19日(土曜日)午前10時から12時
7月22日(火曜日)午後7時から9時
19日、22日内容は同じで、会場はどちらとも西砂保育園

見影橋保育園
1回目説明会7月5日(土曜日)午前10時から12時  会場 こんぴら橋会館
7月8日(火曜日)午後7時から9時    会場  見影橋保育園
問い合わせ 立川市 子ども家庭部保育課 (電話042-523-2111内線569)